相続登記義務化と、相続人申告登記

今年の4月1日から不動産に関するルールが変わり、相続登記の義務化について法律が施行されました。具体的には、相続によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年内に相続登記の申請をしなければならなくなりました。正当な理由が無いのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることとなりました。

皆さま、よくご存じのようで、昨年暮れ辺りから、相続登記手続きについてのご相談が非常に増えておりましたのと、法務局でも相続登記の相談に来られる方々をよくお見掛けするようになりました。

昨年の夏に、依頼者から「10年前に父が亡くなり、8年前に母が亡くなって、父の名義の土地がそのままになっている。このままでは罰金になることは分かっているけれど、どうにかならないか。相続人は、私と妹の2人です。」とのご相談がありました。依頼者様のご説明どおりだとすれば、依頼者様と妹様とのお2人で遺産分割協議を成立させれば、亡きお父様名義の土地の相続登記が可能です。ところが、亡きお父様の戸籍類を探っていくと、依頼者様にはご存命のお兄様がいらっしゃることが判明。「遺産分割協議は、依頼者様と妹様、それからお兄様との3人で行って戴く必要がある」旨をお伝えすると、「兄とは20年以上こちらから連絡を取れない状況にある。どこに住んでいるかも詳しくは分からないし、住民票のある場所には少なくとも住んでいない。ただし、ときどき非通知で兄から電話がかかってくる」ということでした。警察に届けて戴く提案を致しましたが、「兄は借金をして逃げていった人間だから、警察には相談したくない」とのこと。

この場合、お兄様について家庭裁判所へ「不在者財産管理人」の申立てをして相続登記手続きを進めるか、もしくは、「法定相続分」どおりの相続登記手続きを進めることになりますが、依頼者様としては、「不在者財産管理人申立ての費用がかかること」を理由に、「法定相続分」どおりの登記について検討して戴きました。「妹からは父名義の土地は、私(依頼者様)が貰うことに異論がないと言われている」とのことでしたので、法定相続分どおりの登記をしたうえで、妹様の持分を依頼者様が贈与して貰う手続きのご案内を致しましたが、こちらの手続きについては贈与税を理由に、進めることが難しい状況でした。

そこで、「相続人申告の登記」手続きをご案内することで、昨年の夏の時点では「一旦保留」としていたのです。

相続人申告登記とは、今回の「相続登記の義務化」に合わせて、相続人が申請義務を簡便に果たすことができるようにするために、新しい登記方法として創設されたものです。「不動産の所有者が亡くなられ、相続が開始した旨と、自らがその相続人である旨を登記申請義務の履行期間内(3年内)に、登記官に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす」とう登記であり、申出をした相続人の氏名・住所が登記簿に記載されることとなります。この「相続人申告登記」をすることにより、少なくとも相続登記の義務を果たしたこととみなされるため、「10万円以下の過料」に処せられることはなくなることとなります。

暫定的な処置とはなるため、次回お兄様から電話連絡などがあったときには、遺産分割協議について話し合われる必要があることと、このままでは、次の相続が発生したときに、依頼者様の息子様たちがお困りになられることを強く念押しして、依頼者様と妹様との「相続人申告登記」を済ませました。

後々のことを考えると、違和感の残る進め方となりましたが、少なくとも依頼者様のご懸念(相続登記未了のための過料の制裁)は払しょくできたので、取り合えずは急場をしのげたかと思っております。


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