先回、相続にからむ「所有権保存登記」のお話を書かせて戴きましたが、同じように「表題部のみ登記された土地の相続」で、数年前に申請させて戴いた案件を思い出しました。このときは、「判決に基づく所有権保存登記」で対応致しました。
対象の土地は、依頼者のおじい様の代から貸家を建てて、建物を第三者に賃貸していたのですが、登記簿と公図をよくよく確認してみると、公道に接するわずか3平方メートルの土地が、「表題部のみ登記された土地」であり、かつ所有者としては見知らぬ第三者の名前が記載されていました。地目は「公衆用道路」となっていましたので、固定資産税のご負担はなかったようです。税負担が無いのであれば、そのままスルーしていた可能性もあるのですが(実際、依頼者のおじい様からお父様への相続登記(名義変更)は、建物本体部分の底地だけはされていました)、貸家の建っている土地については、この「見知らぬ第三者の名前が記載されている3平方メートルの土地」を通らなければ、公道にでることができない状態でした。建築基準法では、土地に建物を建築する際には、その土地が一定の幅員の道路に一定の長さで接道している必要があるため、貸家の建っている土地を(厳密な意味で)価値あるものにするためには、「見知らぬ第三者の名前が記載されている3平方メートルの土地」を相続人の名義にする必要があったのです。このままの状態で土地・建物を売却される場合は、将来建物を建築することができない土地として、不動産売買の市場では買い叩かれてしまう恐れがあったからです。
「見知らぬ第三者の名前が記載されている3平方メートルの土地」は、実質的におじい様の代からの時効取得を主張することで所有権保存登記をする方法の検討を致しました。不動産登記法第74条1項2号では、「所有権を有することが確定判決によって確認された者」は、所有権保存登記ができるとの規定があるため、表題部に所有者として記載されている者に対して所有権確認の訴えを提起して、その確定判決によって、直接依頼者名義での所有権保存登記を申請する方法です。このような形式の登記が残されている場合、相当昔に登記されているがために、殆どの場合「所有者として記載されている者」は亡くなられており、相続人全員に対する訴えが必要となります。
しかも、このときも表題部に所有者として記載されていたのはお名前のみ(住所の記載はありませんでした)でしたので、訴えの相手方の捜索は、現地調査をすることからスタートすることとなり、相続人探索には時間がかかりましたが、何とか「所有者として記載されている者」の特定とその相続人の特定(ちなみに、相続人様は40名以上(!)となりました)にも成功して、無事に所有権確認の訴えを提起することができ、確定判決を獲得したうえで所有権保存登記を致しました。
戦前には、不動産登記は権利関係のみを公示するものとして(登記事務の管轄は裁判所から法務庁、現在の法務省に移管されることとなる)、税務署に課税台帳としての土地台帳と家屋台帳が備えられていたところ、戦後は台帳が登記所に移管されて、しばらくは登記所において登記制度と台帳制度が併存していました。その後、台帳が廃止されて、当時台帳の現に効力を有する事項を登記簿の表題部に移記する一元化がなされて、この一元化作業は、昭和46年にすべての登記所について完了しました。依頼主ご相談の対象物件は、この一元化作業の際に誤って登記された可能性の高いものだと思われましたが、表題部のみ登記されてそのままで残されている土地は、結構多そうな印象があります。